「うちの子、ごはんの食べムラがひどくて…」「反対に、食欲が止まらなくて太りそう…」。そんなふうに愛犬の食欲で悩んでいる飼い主さんは少なくありません。
実はその違い、わんちゃんの犬種が育まれてきた歴史と深く関わっています。羊を追い続けた牧羊犬や、獲物を探した狩猟犬といった「仕事をしてきた犬種」は食欲旺盛な傾向があり、一方で人の膝の上で暮らしてきた愛玩犬は食が細い傾向があるのです。
私は先代のポメラニアン2頭と14年・16年を過ごし、現在はシェットランド・シープドッグ(シェルティ)の兄妹・つぶあんとミニと暮らしています。まったく異なる2犬種をと暮らした経験から、犬種による食欲の違いを身をもって実感してきました。
この記事では、そのリアルな体験談に加えて、遺伝子レベルの科学的根拠や犬種別の食欲傾向まで、わかりやすくまとめました。愛犬の食事で悩んでいる飼い主さんの参考になれば嬉しいです。
私が実感した「犬種で食欲はこんなに違う」
先代ポメラニアン2頭との食事バトルの日々
私が最初に迎えたのは、ポメラニアンの男の子2頭でした。14歳・16歳でそれぞれ見送るまで、本当にたくさんの時間を一緒に過ごしました。
ただ、食事に関しては悩みの連続でした。1頭は食欲旺盛で問題ありませんでしたが、もう1頭はシニア近づくにつれて、食べムラが増えて、朝は食べず夕方から食べ始めることが多くなりました。
慢性腎臓病を発症してからは、さらに大変でした。療法食は嗜好性が低いものも多いため、基本的には年齢もあるので好きなものを食べさせていました。「今日は何なら食べてくれるか」と毎日のように色々な場所で食べそうなものを買い回っていたのを覚えています。
だからこそ、次に迎える犬種を選ぶとき、私は「食べムラの少ない犬種」を強く意識しました。
シェルティを迎えた理由と、つぶあん・ミニの食欲
牧羊犬であるシェットランド・シープドッグ(シェルティ)は、昔実家で飼っていたため、食欲旺盛で食べムラが少ないと知っていました。
兄のつぶあんは「味のない水は飲まない」という飲み物へのこだわりこそ強いものの、食べ物に関しては基本的に何でもよく食べます。フードを残すことはほぼなく、毎食を楽しみにしている様子が伝わってきます。
妹のミニも食欲旺盛で、おやつの気配を感じると真っ先に飛んできます。もちろん個体差はありますが、犬種による食欲の傾向は確かに存在すると、身をもって感じています。
仕事犬と愛玩犬|歴史的背景が食欲を左右した
犬種グループという考え方
わんちゃんの犬種は、JKC(ジャパンケネルクラブ)によって10のグループに分類されています。このグループ分けは、それぞれの犬種がどんな目的で作られてきたかという「歴史」に基づいています。
たとえば、シェルティが属する第1グループ(牧羊犬・牧畜犬)、ラブラドール・レトリーバーなどの第8グループ(鳥猟犬)、そしてポメラニアンやチワワが属する第9グループ(愛玩犬)。この分類の違いが、食欲の傾向に大きく影響しています。
「仕事をしてきた犬種」はなぜ食欲旺盛なのか
牧羊犬、使役犬、狩猟犬といった「仕事犬」には、次のような共通点があります。
- 1日中走り回り、羊を追い、獲物を追跡する仕事をしていた
- 高いエネルギー需要に応えるため、効率よくたくさん食べられる個体が生き残った
- 食べムラがあると仕事中にバテてしまうため、好き嫌いせずよく食べる遺伝子が選抜されてきた
つまり、食欲旺盛であることが「仕事犬として優秀であること」の条件だったのです。
実際、シェルティの原産地であるスコットランドのシェトランド諸島は、寒冷で厳しい環境でした。限られた食料で長時間働くためには、与えられたものをしっかり食べきる能力が不可次だったと考えられます。ビーグルやラブラドール・レトリーバ・など、他の仕事犬にも同じことが言えます。
私のシェルティたちが毎食しっかり食べるのも、何百年もかけて牧羊犬として磨かれてきた歴史が背景にあるんだなと思うと、食事の時間がちょっと感慨深くなりますね。
「愛玩犬」はなぜ食が細いのか
一方、愛玩犬(第9グループ)には別の歴史があります。
- もともと運動量が少なく、エネルギー需要も低い
- 飼い主さんから特別な食事をもらえる環境で生きてきた
- 食欲旺盛である必要がなく、繊細な食性が残りやすかった
ポメラニアンはもともとスピッツ系の犬種を小型化して作られた愛玩犬です。食に対するこだわりが強かったり、同じフードに飽きやすかったりするのは、性格や育て方の問題ではなく、犬種としての背景があるということです。
科学的根拠|遺伝子レベルでも食欲の違いが確認されている
犬種による食欲の違いには、実は遺伝子レベルの裏付けもあります。
2016年、ケンブリッジ大学のEleanor Raffan博士らの研究チームが、科学誌「Cell Metabolism」に画期的な繖文を発表しました。
POMC遺伝子の変異と食欲の関係
この研究では、ラブラドール・レトリーバーの約25%が「POMC遺伝子」に変絰を持っていることが明らかになりました。
POMC遺伝子は、脳の中で「もうお腹いっぱい」という満腹シグナルを出す役割を担っています。この遺伝子に14塩基対の欠失(削除)変異があると、満腹感を感じにくくなり、常に食べたがる傾向が生まれるのです。
さらに興味深いのは、この変異を持つ個体は体重が平均より重く、食べ物への執着(フードモチベーション)が高いことも確認されています。研究チームは、盲導犬などのアシスタンス犬として選抜されたラブラドールに、この変異がより多く見られることも報告しています。食べ物への強い関心が、トレーニングの成功率を高めていた可能性があるのです。
他の犬種では見つかっていない
この遺伝子変異は、ラブラドール・レトリーバーと近縁種のフラットコーテッド・レトリーバーでのみ確認されており、他の犬種では見つかっていません。
つまり、すべての「食欲旺盛な犬種」がこの遺伝子変異を持っているわけではありませんが、犬種の歴史的な選抜が遺伝子レベルで食欲に影響することを科学的に示した重要な研究と言えます。
私のシェルティたちにPOMC変異があるかはわかりませんが、牧羊犬としての歴史の中で「よく食べる個体」が選ばれ続けてきたことは間違いないでしょう。
参考文献: Raffan E, et al. “A Deletion in the Canine POMC Gene Is Associated with Weight and Appetite in Obesity-Prone Labrador Retriever Dogs.” Cell Metabolism, 2016; 23(5): 893-900. (PMID: 27157046)
食欲タイプ別|犬種の傾向まとめ
自分の愛犬がどのタイプに当てはまるか、代表的な犬種を一覧にまとめました。
| 犬種 | グループ | 食欲傾向 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ラブラドール・レトリーバー | 鳥猟犬 | 旺盛 | 肥渀注意・POMC変異あり |
| ゴールデン・レトリーバー | 鳥猟犬 | 旺盛 | 肥満注意 |
| ビーグル | 嗅覚ハウンド | 旺盛 | 盗み食いに注意 |
| シェットランド・シープドッグ | 牧羊犬 | 旺盛 | 体重管理 |
| ボーダー・コリー | 牧羊犬 | 旺盛 | 運動量とセット |
| ウェルシュ・コーギー | 牧畜犬 | 旺盛 | 肥満注意 |
| 柴犬 | 原始的な犬・スピッツ | 個体差大 | こだわり強め |
| トイプードル | 愛玩犬 | やや控えめ | 食べムラあり |
| ポメラニアン | 愛玩犬 | 食ムラ多い | フード工夫必要 |
| チワワ | 愛玩犬 | 食ムラ多い | 低血糖注意 |
| マルチーズ | 愛玩犬 | 食ムラ多い | フードの工夫が必要 |
| ヨークシャー・テリア | 愛玩犬 | 食ムラ多い | 食欲不振しがち |
| シー・ズー | 愛玩犬 | やや控えめ | 食ムラあり |
※これはあくまで犬種としての傾向です。 同じ犬種でも個体差は大きく、食欲旺盛なポメラニアンもいれば、食が細いシェルティもいます。「うちの子はこの傾向と違う」という場合も、それはその子の個性です。
注目したいのは、柴犬のように「個体差が大きい」犬種もいることです。柴犬は日本原産の原始的な犬種で、仕事犬としての歴史も持ちますが、独立心が強く食へのこだわりが強い個体も多いと言われています。犬種グループだけでは一概に判断できない部分もあるため、愛犬をよく観察して、その子の食欲パターンを把握することが大切です。
私のつぶあん(兄)とミニ(妹)も同じシェルティですが、よく見ると違いはあります。つぶあんはフードそのものには何でも食いつきますが、飲み物にはこだわりが強い。ミニは何でも食べますが、実は食べることよりも遊ぶことの方が好きです。同じ犬種・同じ兄妹でも、食に対する個性はそれぞれです。
まとめ|「うちの子の食欲」を犬種の歴史から理解する
わんちゃんの食欲の違いは、その犬種が背負ってきた歴史の証です。
牧羊犬や狩猟犬などの仕事犬は、過酷な仕事をこなすためにたくさん食べる必要があり、好き嫌いせず食べる遺伝子が受け継がれてきました。愛玩犬は、人のそばで穏やかに暮らす中で、繊細な食性が残りやすかったのです。
私自身、ポメラニアンとシェルティという2犬種を飼った経験から、この違いを強く実感しました。先代のポメラニアンたちの食べムラに悩んだ日々も、今のシェルティたちが毎食楽しみにしている姿も、どちらもその犬種らしさなのだと思います。
大切なのは、愛犬の食欲タイプを犬種の背景から理解し、その子に合った食事管理をすること。食べムラがあっても、食欲旺盛でも、それぞれの犬種らしさを受け入れて、楽しい食事の時間を作っていきたいですね。
これからわんちゃんを迎える方は、犬種選びの段階で食欲の傾向を知っておくと、飼い始めてから慌てずに済みます。もちろん犬種選びは食欲だけで決めるものではありませんが、毎日のことだからこそ、知っておいて損はない情報だと思います。
愛犬の食欲に悩んだときは、「なぜこの子はこうなんだろう?」と犬種の歴史に目を向けてみてください。きっと、今までとは少し違った気持ちで食事の時間に向き合えるはずです。
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参考文献
Raffan E, et al. “A Deletion in the Canine POMC Gene Is Associated with Weight and Appetite in Obesity-Prone Labrador Retriever Dogs.” Cell Metabolism, 2016; 23(5): 893-900. PubMed
